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「学生の興味を育てたい」
教育者・研究者である自分が、この想いを実現するために。

摂南大学で地理学を教える大谷侑也氏は、アフリカ大陸の氷河と山麓の水資源について研究する一方で、VRを活用した地理教材の開発を構想している。
「学生にもっと興味を持って授業に取り組んでほしい」。その想いから、現実に近い自然環境をVRで体験してもらう方法を、教育現場へ広げていくことを目指している。
大学の研究室には、専門的な知識や研究のノウハウ、現場で集めたデータがあるが、それを実際の教育現場や事業で使える形にしていくには、研究とは別の技術や体制が必要になることもある。
そんな中で、大学や研究者ができることは何か。そして、実現するために企業や外部の専門家と連携する余地はどこにあるのか。研究と教育の現場から見えてくる産学連携の可能性を聞いた。


大谷侑也のプロフィール写真

地理学研究者

大谷侑也さん

地理学研究者として、アフリカ大陸に残る氷河の減少と、山麓の水資源や周辺住民の生活への影響を研究している。氷河、雨水、河川水、地下水、農業用水などを現地で採取し、安定同位体分析によって氷河と山麓の水資源の関係を追跡している。

研究活動ではGISや衛星画像の分析、統計処理にAIを活用。現在は地理教育の新たな形として、沖縄の海中環境を3D化し、VRで体験できる教材の開発を構想している。

ゴール / ミッション

  • — 現場の課題から新しい取り組みが生まれる過程を知る — 研究者が教育現場で感じている困りごとが、どのように具体的な構想へ変わっていくのかをたどる
  • — 大学だけでできることと、外部との連携が必要になることを見分ける — 一つの構想の中でも、自前で担う部分と外に頼る部分が分かれていく様子を確認する
  • — それぞれの専門性の活かし方を考える — 研究者側の強みと企業側の強みを、どこで組み合わせられるのかを整理する
  • — 技術を導入した、その先の価値まで考える — 「使えた」で終わらせず、何をもって良くなったと判断するのかまで踏み込む
  • — 産学連携の視点で考える — 連携が必要になる場面について知る

出発点は「学生に興味を持ってほしい」だった

—— レポートだけでは届かない学生に、体験から入る授業を用意したい

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

氷河と水資源の研究をされる一方で、VRを使った地理教材も構想されています。なぜVRを教育へ取り入れようと思ったのでしょうか。

大谷侑也のプロフィール写真
大谷侑也

まだアイデアの段階ではありますが、きっかけは大学の授業でした。

これまでかなりの数の授業を担当して、1,000人、2,000人という規模で大学生を見てきました。その中で学生にアンケートを取ると、半数以上が、机に向かって勉強する習慣がないと答えたこともあります。授業をしていても、レポートを課すだけでは内容に興味を持てない学生が少なくないんですよね。

そういう学生たちに、どうすれば興味を持って授業へ取り組んでもらえるのか。そう考えたときに思いついたのがVRでした。

地理にはフィールドワーク(現地調査)があります。ただ、100人単位の学生を沖縄の海やアフリカの山まで連れていくことは現実的ではありません。

だったら、できるだけ現実に近い自然環境を体験して、そこで学んでもらう方法としてVRを使えばいいんです。

学生に面白くなさそうな様子で授業を受けていると、やはり落ち込みます。まずは学生が興味を持って講義に取り組めるような教材を作りたいと思っています。

現地へ行かなければ作れないものを教材にする

—— 題材に沖縄の海中を選んだ理由は、衛星画像では再現が難しいから

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

具体的には、どのようなVR教材を考えているのでしょうか。

大谷侑也のプロフィール写真
大谷侑也

実際に現地で見た景色をVRで再現することで、たくさんの人がフィールドワークを体験できる、というものです。

今考えているのは、ゼミ生と沖縄へ行って、ダイビングをしながら海中を撮影することです。360度カメラやGoProなど、複数台のカメラを使って撮影し、それを3D化します。

3D化したデータを、Unreal Engine(ゲームや映像制作で使われる3D開発環境)上に組み込んで、実際の沖縄の海の環境を作る。それをVRで、その場所に入り込んだように歩ける形にしたいと思っています。教室内で歩いた軌跡と、VRの中で沖縄の海を歩いた軌跡が同期するようなイメージですね。

水中やダイビングを選んだのにも理由があります。

山や一般的な自然環境は、今は衛星画像がかなり高精細なので、実際にフィールドへ行かなくてもある程度は3D化できるんです。ただ、水中ではそれが難しい。

なので、「フィールドワークの価値が一番出る場所はどこか」と考えて、沖縄の海でのダイビングを選びました。実際にそこへ行って、自分たちで撮影しなければ撮れないものを使いたい、ということですね。

内容の裏付けは、専門性を持つ教育者・研究者が担う部分

—— 調査を怠らず、正しいものを届ける

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

VR教材を広げていくうえで、研究者だからこそ担える役割はどのようなところにあると考えていますか。

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大谷侑也

研究者が担うべきなのは、内容の裏付けだと思っています。

私は、研究の軸を場所だけではなくて、時間軸にも広げたいと考えています。日本史で言えば、本能寺の変ですね。現在の本能寺跡地を見るだけではなくて、歴史資料とひもづけることで、本能寺の変が起きる前やその最中に何が起きていたのか、どういう状況だったのかまでVRで体験できたら面白いと思っています。

ただ、完全な資料が残っていない出来事や遺跡もあります。資料がないところを、想像だけで勝手に作るわけにはいきませんし、そこはあくまで研究者、大学教員として、しっかり調査したうえで正しいものを届けないといけない。

現在残っている資料や情報をきちんとひもといて、内容を裏付ける。そこは研究者の得意分野であり、強みだと思いますし、自分たちでやらなければいけない部分だと思っています。

研究者の構想を企業が技術で形にする

—— 機器・技術は企業、専門性は研究者という棲み分け

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

一方で、VR教材を実際に形にしていくには、大学や研究室だけでは難しい部分もありますか。産学連携については、どのように考えていますか。

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大谷侑也

私一人の力では無理だと思っています。

今進めようとしている沖縄のVRについても、学生が卒業論文や卒業研究と絡めて取り組もうとしてくれています。一緒にできる部分はあるんですが、例えばUnreal Engine上でキャラクターを動かしたり、モーションキャプチャー(人の動きをデータとして取り込む技術)をしたりする段階になると、学生もその分野の専門家ではありません。

そうすると、企業の力を借りる必要がある部分も出てくるかもしれません。

産学連携というところで言えば、例えばVRゴーグルを開発している企業と連携して、学校へ導入していくことは考えられますね。

今のVRゴーグルは、重いものも多いですし、VR酔いもあります。学校現場に導入するとなると、健康上の問題にも留意しないといけません。そういう機器側、技術側の部分と、研究者が持っている専門性をどう組み合わせるか、というところが重要だと思っています。

一方で、先ほど話したように、歴史資料をひもといて内容を裏付けるような部分は、研究者の強みです。

全部を大学だけでやるというよりは、それぞれできる部分を組み合わせながら進めていくことで、形になるのかなと思っています。

「作れた」で終わらず、その先の導入まで考える

—— 効果を測定し、その価値を広げていく

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

VR教材を実際の学校へ広げていくためには、これから何が必要になりますか。

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大谷侑也

そこは、ちゃんと効果を測らないといけないと思っています。

机に向かって勉強する座学と、VRを使った地理教育や歴史教育を比較する必要があります。VRを使った方が、本当に記憶の定着率が上がるのか。学習効果が高くなるのか。そこをきちんと定量的に示さないといけません。

私が担当している授業の学生を対象に効果を測るだけなら、2年後くらいにはできると思います。ただ、それをほかの大学や高校に広げていくとなると、もう少し時間がかかります。5年後くらいかな、という感じですね。

なので、今はまだ始まったばかりです。まずは自分の大学で実践して、そこでどういう効果が出るのかを見る必要があると思っています。

教育者・研究者としてVRを通して叶えたいビジョン

—— 行動には「興味」という燃料が必要で、教材はその補充のためにある

VQ編集部
VQ編集部 インタビュアー

最後に、この取り組みを通じて、最終的にはどのような教育を実現したいと考えていますか。

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大谷侑也

根にあるのは、学生に興味を持ってほしいということですね。

それを踏まえて、フィールドに出る人や機会を増やしていきたいです。外に出て自然を見たり、人と接したりするところまでつなげてほしいと思っています。

ただ、そこまで行動するには、「興味」という燃料がないと難しいんですよね。その燃料を補充するための教材を開発したい、という感じです。

これまで自分も現場を見ながら研究をしてきたので、「これをみんなにも見せたい」という気持ちもあります。

とはいえ、VR空間を歩くだけだと面白くないので、ゲーミフィケーション(ゲームの仕組みを取り入れる工夫)と組み合わせることも考えています。例えば、サンゴが白化している部分を手でなぞったら面積が表示されるとか、学生同士でその面積を競い合うとか。そんな仕組みがあっても面白いですよね。

そういう教材をきっかけに興味を持ってもらって、その先で本当に外へ出て、自然を見たり、人と接したりしてもらいたいと思っています。

自社だけでは解けない課題に、専門性を組み合わせる


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地理学研究者

大谷侑也さん

地理学研究者として、アフリカ大陸に残る氷河の減少と、山麓の水資源や周辺住民の生活への影響を研究している。氷河、雨水、河川水、地下水、農業用水などを現地で採取し、安定同位体分析によって氷河と山麓の水資源の関係を追跡している。

研究活動ではGISや衛星画像の分析、統計処理にAIを活用。現在は地理教育の新たな形として、沖縄の海中環境を3D化し、VRで体験できる教材の開発を構想している。